2024年5月23日にこれまで私が四国で行ってきた沢登り・キャニオニングの活動記録として、「GORGE CLUB」を自費出版した。
私は普段、記録がほとんど無い渓谷に赴き地理的未知を解明する、開拓を生業にしている。つい最近まで本州と橋で接続されていなかった四国の渓谷には多くの未知が残されていて、それが私の興味の対象なのだ。四国で私が開拓を行った渓谷は100本を超え、その中には愛好家から見ればびっくりするような魅力を秘めた渓谷もある。それらをまとめて自費出版することにしたのだ。
意外なほど多くの人々に購入いただき、当初印刷した100冊は1ヶ月くらいで完売した。増刷するつもりはなかったのだが、これまた意外なほど多くの再販希望のDMをうけ、ギリギリ売り切れそうな80冊の増刷を行った。
本日の時点で残り11冊。もともとのコンセプトが「一部マニアの間で回し読みされる怪しい書籍」だったので売り切れてくれないと困るのだが、なんとかギリギリ売り切れそうな状況だ。
先日、私と同じ渓谷・沢を趣味とする変人たちが全国から集まるイベントに参加した際「GORGE CLUB」の初版100部が売り切れたことに多くの参加者が驚いていた。3500円もする怪しい書籍を買う奇人が全国に100人もいることに私自身も驚いているので当然の反応だ。
そもそも、書籍を自費出版するにあたりどのような内容にするか結構悩んだ。私と似た趣味の先輩(面識はない)の中には全国の書店に並び、有名作家の名が帯に躍る書籍をたぶん数万部くらい売上げたM氏もいる。当然、そこまでの書籍を書き下ろすのは私には荷が重いが、それでもどのような読者を想定するかは大きな問題だった。結果的に「一部マニアの間で回し読みされる怪しい書籍」というコンセプトは悪くなかったようで、想像以上に”一部マニア”の数が多かったという嬉しい誤算はあったものの、概ね書籍の内容に価値を見出してくれる同志の手に渡ったと思う。
先日、ハイパーメディアコンサルタントの友人と飲んでいる時に自費出版するくらいなら俺の会社で出版させて欲しかった、と言われ、こんな本を全国に流通させて共感を得られるのだろうか?と改めて考えた。私が普段行っている渓谷・沢での活動は社会的価値が認められることはない反社会的行為であり、これまでに出版された同類の書籍の多くは同じ趣味の人々に向けた技術書やガイド本の体裁をとっている。一部、先鋭的な探検行為を行う人物が自伝を出版することもあるが同じ趣味の人間以外には理解できなさそうなものが多い。
前述したM氏の書籍は異色で、恐らく渓谷に興味のない人間、もしかしたらアウトドアに全く興味がない人間でも楽しめてしまう、技術的要素を一切省いた内容だ。技術的要素というのは界隈の内側にいる人々からすると重要だが、そうでない人々にとっては無価値だ。M氏は巧みな表現により、まるでヤンキー漫画を読んでいるような手軽さで”社会の外側”を読者に届けることに成功した。
といっても、私自身の行為をM氏並みの表現力で文章にするのは結構ハードルが高いし、技術的要素も自己満足として記録しておきたい。当然、帯をかいてくれそうな有名作家の知り合いもいない。私にできる表現として「一部マニアの間で回し読みされる怪しい書籍」というコンセプトは良い線な気がする。
そういえば、以前、私の自宅古民家を取材したい、と某雑誌の編集長からコンタクトがあった。
『DIYリノベーションの古民家暮らしって、暑かったりとか湿度に悩まされてたりとか、何か不便を我慢するのが当たり前、それこそが古民家暮らしっていう風潮があるじゃないですか。鈴木さんのブログを拝見して衝撃を受けました。古民家をDIYで現代住宅さながらにリノベーションしている。これってアンチテーゼだと思うんです。DIYだからって妥協する必要はないってことを是非とも記事にしたい』
結果的に10Pくらいの特集と、表紙まで飾らせていただき誇らしいような、若干恥ずかしいような経験をさせてもらった。
アンチテーゼ、というフレーズは今でも気に入って会話の中で使っているくらい、良い口説き文句だった。そうか、私の行為はアンチテーゼなのだな、と妙に納得もした。このくらい良いフレーズが思い浮かべば「GORGE CLUB」もより多くの人にお届けできる書籍になるのではないかなどと、暑過ぎて外出たくないので昼間から酒を飲みながらつらつら