沢登りの食糧計画(超長期沢登り対応)

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長期間にわたる沢登りを計画する際、「食料をどうするか」について悩むだろう。ここでは、自分なりの経験をもとに、その考え方や工夫を記録しておこうと思う。

つい先日、初対面のメンバーから「1週間を越えるような沢登りで、食料をどうしているのか」と質問を受けた。確かに1週間超となると、何をどれだけ持っていくべきか、私自身頭を悩ませた記憶がある。

当初は、これまで行ってきた3泊4日ほどの国内の沢登りでの食料計画をそのまま流用することも考えた。しかし、実際に計画を立てる中で、それでは不十分だと感じ、いくつかの工夫を加えることにした。その結果、2025年春の台湾遠征における10日間の行動を通して、食料面ではほとんどストレスを感じることなく終えることができた。

私自身、長期の沢登り経験はそれほど多い方ではないが、私が知り得る範囲で、長期行動ならではの注意点について羅列していく。

カロリー設定の基本方針

まず大前提として、私が沢登りで一日にどれくらいのカロリーを目安にしているかについて書こうと思う。沢登りにおける私の目安は、おおよそ一日3,000キロカロリーだ。ちなみに身長182cm / 70kgの男性である。

実際に沢へ入り、行動中に消費されるカロリーを考慮すれば、もっと多く摂取しなければ体重が落ちていくのは明らかである。ただし、それ以上の食料を持つと、重量の増加だけでなく、調理や食べること自体にかかる労力も増えてしまう。そのため、私は行動中に空腹やシャリバテを感じない程度の「ギリギリのライン」として、3,000キロカロリーを一日の基準にしている。

行動食・朝食・夕食それぞれのカロリー内訳はだいたいこんな感じだ。詳細は後ほど、日数ごとに解説していく。

  • 行動食:1700キロカロリー(シリアル・焼き菓子など)
  • 朝食:500キロカロリー(麺類+飲み物)
  • 夕食:800キロカロリー(アルファ米+ドライフード+飲み物+ジャーキーなど)

また、長期の沢登りに出る前には、あらかじめ少し体重を増やして体内にエネルギーを蓄えておくようにしている。

それでは早速、日数ごとに、実際にどのような食料を持っていくかについて確認していこう。

日帰り

日帰りであれば、基本的にコンビニで購入した菓子パンやお菓子などで済ませてしまうことが多い。わざわざ自宅で準備するのが面倒だからだ。

一泊二日程度の泊まりの場合は、初日はコンビニのパンやおにぎりを食べ、夕食と朝食、そして翌日の行動食をあらかじめ準備していくようにしている。

短期間であれば、カップラーメンやカレーメシのようなインスタント食品が最もコストパフォーマンスが良い。調理の手間が少なく、油を多く含むため重量あたりのカロリー効率が高い。また、味のバリエーションが豊富なので、気分に応じて選べるのも利点だ。

3泊〜

ただし、これが連泊になってくると話は変わってくる。そもそも小麦製品は日本人にとって消化があまり得意ではないとされており、連日摂取していると下痢になったり、十分にエネルギーを吸収できなかったりする場合がある。

したがって、日数が増えるほど、食料選びにも注意が必要になる。三泊四日となると、国内の渓谷では比較的長期の部類に入る。このくらいになると、主食に米(アルファ米)を取り入れることをおすすめする。米は消化が良く、効率的にエネルギーを吸収できる。

また、日数が増えるにつれて、体調の変化にも注意が必要だ。私の場合、長期行動中にささくれができやすくなったり、肌荒れが起きたりすることがある。こうした症状を防ぐためには、マルチビタミンなどのサプリメントを導入するのがおすすめだ。

1週間〜

1週間を超えるような長期間の沢登りでは、食料計画において注意すべき点は増える。

私が特に重視しているのは、食料の「バリエーション」だ。これは栄養面だけでなく、精神的な安定、つまりメンタルケアの観点から非常に重要だと思っている。

長期間の行動では、疲労の蓄積により集中力やモチベーションが低下しやすい。沢登りにおいてそれは安全に直結する問題でもあるため、心身のバランスを保つ工夫が必要だ。毎日同じ食事ばかりでは、食べること自体が苦痛になりかねない。そこで私は「食事を楽しみにできるような構成」にすることを意識している。

行動食・飲み物・夕食・朝食、それぞれに変化を持たせることで、日々の行動に小さな楽しみを加えることができる。閉鎖的な渓谷内で長期間行動する中では、この「食の楽しみ」が精神的な支えとして非常に大きな意味を持つ。

夕食

夕食では、主食にアルファ米を採用し、組み合わせるおかずにはフリーズドライ食品を利用している。フリーズドライは軽量で保存性が高く、味のバリエーションも豊富だ。私は3日周期くらいで味を変えられるよう、複数種類を持っていくようにしている。

また、ご飯を少し残して雑炊やお茶漬けにするなど、一つの主食を何通りにも楽しめる工夫もしている。限られた食料の中でも、味の変化を感じられるようにすることで、満足感が格段に上がる。

朝食

朝食は調理時間をできるだけ短くすることを重視している。体が冷えている朝や、早朝出発が必要な場面では、素早くエネルギー補給できることが重要だ。そのため、お気に入りのカップラーメンやインスタント麺を複数種類持っていき、毎日違う味を楽しめるようにしている。

行動食

行動食は最もバリエーションを豊かにしている部分だ。重量あたりのカロリー効率が多少低くても、「好きなもの」「気分を上げられるもの」を優先して選んでいる。栄養とカロリーのバランスが良いシリアルをベースに、焼き菓子、チョコレートやせんべい、ポテトチップスなど高カロリーな食品を複数種類持っていく。多少重量は嵩むが、グミのように酸味や食感を楽しめるものや、羊羹など消化の良い菓子も少量加えている。

日中の行動で行動食を食べ切らなかった日は、夕食後にコーヒーとお菓子を楽しみながらゆっくり過ごすようにしている。この時間が一日の中で最も癒される瞬間だ。

飲み物

もう一つ重視しているのが飲み物のバリエーションだ。お湯に溶かすだけで飲める粉末飲料は種類が非常に豊富で、コーヒー・紅茶・スープ・味噌汁・甘い飲み物などを状況に応じて選ぶことができる。これらは軽量でスペースをほとんど取らず、それなりにカロリーもある。

特に夜、疲れた体を休めながら温かい飲み物を口にする時間は、精神的な癒しになる。私は1日あたり6〜7杯分の飲み物を飲めるように、複数種類を用意して持っていくようにしている。

栄養補助

体調維持のためには、サプリメントの活用も効果的だ。私はマルチビタミン(鉄分入り)を持参しており、長期間の行動でも欠乏を防げるようにしている。肉体は日々消耗していくため、タンパク質の補給も重要だ。ビーフジャーキーのようにタンパク質を多く含む食品を積極的に取り入れ、1日あたり40g程度のタンパク質を摂取できるようにしている。さらに、アミノ酸系サプリメントを併用することで、疲労軽減にもつながっていると感じている。

JETBOILの活用

上記の食料計画の場合、JETBOILで全てお湯を賄った場合、260gのガス缶で約10人/日のお湯を沸かすことができる。着火剤の重量や焚き火準備の手間を考えると、JETBOIL導入によるメリットは非常に大きい。調理はJETBOILに任せ、焚き火は時間や体力に余裕がある時だけ楽しむ娯楽と割り切ることで、ずいぶん余裕が生まれる。

予備食料

予備の食料について、私はほぼすべてをシリアルにしている。シリアルは重量あたりのカロリーが高く、栄養バランスにも優れ、さらにパッキング効率が非常に良い。これらの理由から、いざという時の備えとしては最適な食料だと考えている。

私の場合、行動計画上の食料とは別に、シリアルを一袋分多めに持っていくようにしている。これは、想定外の停滞や行動延長が発生した場合に備えるためであり、「余分に持つ」というよりも「安全マージンとして計画に組み込む」という意識で準備している。