北海道には未知のゴルジュが眠っている。2024年9月の北海道遠征の主題であったユウセツ沢を遡行した我々が次に向かったのは登別温泉の程近く、登別渓谷だ。以前、遠征の計画をする際に目をつけていた渓谷の一つで、昨年tamoshima氏により一部開拓されている。2024年夏、氏と面会した際に北海道遠征の話をすると、面白いゴルジュがある、と登別渓谷をオススメされた。なんでもtamoshima氏をして撤退を余儀なくされたほどの渓谷で、半分以上のセクションが未知のまま残っているというではないか。
登別渓谷の集水域は30km2。地質・勾配などの条件は九州の由布川渓谷と酷似しているが、比較にならないほどの大水量だ。終始脱出困難な水路に大水量、なんとも魅力的な組み合わせに吸い寄せられ、遠征の日程に組み込むことにした。
登別渓谷|沢登り|2024.9.8
メンバー:ゴルジュスズキ|キム|リュウスケ
登別渓谷は終始険しい地形を連続させ、地形図からの推測ではゴルジュの全長は2km以上。途中でのビバークができない可能性があるためワンデイでの遡行を目標に未明に新登別大橋からアプローチする。
薄暗い中遡行開始するとすぐに激流の水路が連続するようになった。しばらく進むと側壁トラバース以外で通過できそうにない水路や滝が連続し、ついにCS2mで高巻きを選択。高巻きもボロボロの側壁を慎重に登る必要があり結構時間がかかる。
昼前に記録が残る最後の滝2mに到着。小さな滝だが磨かれた側壁と大水量により登攀は一筋縄では行かない。ここからが登別渓谷の核心部だ。
2mは右からボロボロのリスを使いA1で登攀。その後も難しいCS滝が2つ続き、トップを交代しながら核心部を通過する。核心部の通過に3.5時間要し、残り時間は少ない。だがこの先に続く未知の空間に吸い寄せられるように奥へと進んでいった。
渓谷内が薄暗くなり始めた16時。激流の水路を空身で泳ぎ抜けた先に絶望的な光景が広がる。垂直以上に聳える側壁のなか全水流を幅1mまで収束させ5mの高さを三段に分割し落ちる絶望的な滝。側壁からは支流滝が幾重にも水を落としヴェールのように滝を覆い隠している。どう考えても絶望的な、人類が近づいていいような代物ではないが、その裏腹になんとも神秘的で美しい景観だった。
時刻も遅い。登別渓谷から脱出するには1kmほど戻り側壁を登攀して脱出するしかない。今の我々にできるのは足早に引き返すことだけだった。
総評
日本を代表する大水量ゴルジュ。命に関わる水流が至る所にあり突破には総合的なリスク管理が必要。上部セクションはいまだに記録がなく未知が残る。