【愛媛】長老淵とは?山奥に眠る四国屈指の特殊地形

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愛媛県大洲市の山奥、ひっそりとした渓谷の最奥に「長老淵(おさぶち)」と呼ばれる特異な地形がある。訪れるものは少なく、観光地として取り上げられることもほとんどない。だが実際にその場に立つと、この場所がただの渓谷の一部ではないことを、否応なく理解させられる。

長老淵は、まるで神が通過したかのように、大地が端正に切り裂かれた空間だ。巨大な一枚岩が高さ約30メートルにわたって、天から地まで一直線に割られている。その割れ目は驚くほど直線に続き、側壁も計測されたかのように垂直だ。自然が生み出したものだと分かっていても、何か大いなる力が介在したのではないかと想像してしまう。そこには、確かに神聖さを感じさせる佇まいがある。

決してスケールの大きな渓谷ではない。四国にはもっと深く、もっと険しい谷はいくらでも存在する。しかし、この長老淵が持つ神秘性という一点においては、四国屈指の特殊地形と言って差し支えないだろう。

この場所には古くから伝承も残されている。

かつて雄の竜が住んでいた淵であり、雌の竜がその想いの末に岩を貫いた──そんな竜神伝説が語られてきたという。巨大な岩が真っ二つに割れたかのような景観を前にすると、こうした物語が生まれた背景にも自然と納得がいく。

ここからは、長老淵へのアクセスについて触れておきたい。
長老淵へは車道から歩いておよそ1時間、荒れた渓谷沿いを遡行することになる。過去には遊歩道が整備されていた記録も残っているが、現在では車道から100メートルも進むと道は不明瞭になり、以降はほぼ沢登りに近いスタイルで進むことになる。

道中、極端に険しい地形があるわけではないが、川を何度も渡渉し、藪に覆われた斜面を頼りなくトラバースする場面もある。足を濡らさずに進もうとするよりも、最初から濡れても構わない装備で沢の中を歩く方が、精神的には楽かもしれない。

歩き出してすぐ、岩盤を水平・垂直に切り出したような、非常に個性的な滝が現れる。「これは期待できそうだ」と思わせる景観だが、こうした特殊な地形はその後ぱったりと姿を消し、長老淵に至るまでやや退屈な渓谷が続く。

歩き出して1時間。視界が開けた先に現れるのが長老淵だ。

入り口には小さな祠と、ひっそりと佇む古い看板が残されている。かつてこの場所に神秘性を見出し、多くの人が足を運んでいた時代があったのだろう。だが現在、ここを訪れる人はほとんどいない。遊歩道はおろか、踏み跡すらほとんど確認できなかった。

目の前に広がる長老淵は、小山のような一つの岩塊のど真ん中を、真っ直ぐ、本当に真っ直ぐ、直線かつ垂直に裂いた形状をしている。この空間に立てば、きっと貴方も神秘的な何かの存在を感じずにはいられないだろう。

そそり立つ岩壁の間を、腰まで水に浸かりながら進んでいく。その先に、落差3メートルほどの小さな滝が姿を現す。滝壺の先で渓谷はわずかに幅を広げ、そこから先は、何事もなかったかのように里山の穏やかな渓相へと戻っていく。

長さにしておよそ50メートル。この区間だけが、まるで異界のように切り取られた特異な空間なのだ。

渓谷の多い四国といえど、これほどまでに明確に、真っ直ぐに、垂直に切れ込んだ地形を、私は他に知らない。この場所に立つと、地形や渓谷というものが持つロマンを、改めて強く意識させられる。

やはり渓谷は良い。水のある場所が、古くから人々の自然崇拝の対象となってきた理由を、身体感覚として実感できる。長老淵は、そんな感覚を静かに、しかし確かに呼び起こしてくれる空間だった。

長老淵の場所

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