古くから沢登りが行われてきた日本において、今やほとんどの渓谷が踏破され、未知のまま残されているものは、ごくわずかしかない。その限られた人跡未踏の谷の一つであり、かつ大規模を誇るのが、北アルプスの立山に源を発する称名川下ノ廊下である。
下ノ廊下は「称名廊下」とも呼ばれ、立山西面の広大な溶岩台地を深々と穿ち、約1.8kmにわたって、両岸に高さ200mの絶壁を絶え間無く連ねる大ゴルジュ帯である。その規模は日本最大であり、周囲から完全に隔絶されたこの大峡谷の出口には、同じく”日本最大”の称号をもつ称名滝が落差320mの壮大な姿で流れ落ちる。
先鋭的な沢屋のなかで「日本最後の地理的空白地帯」というフレーズが掲げられた称名廊下は、当然、皆の憧れの的となっていたが、同時に遡行を不可能視されているような沢でもあった。
『渓谷登攀(大西良治 著)』より抜粋
『渓谷登攀』を読み称名廊下の存在を知った当時の私にとって、そこは宇宙空間と同じくらい遠い世界だった。
稀代の遡行者大西氏をして、数十日におよぶ偵察と1週間という遡行期間を費やした日本最強のゴルジュ称名廊下。その称名廊下を第二登する日が来るとは、当時の私に言っても信じてもらえないかもしれない。
最高のパートナーと最高のタクティクス、そしてわずかばかりの運に恵まれ、称名廊下に新ラインを引けたことを幸運に思う。
初登者大西氏が詳細記録を非公開としたことで、我々の挑戦は最大限クリエイティブな遡行ラインとして結実した。大西氏に敬意を表し詳細記録は非公開とする。
称名川_下ノ廊下|沢登り|2024.10/5〜6
(10/5 – 10:30称名滝落口 〜 10/6 – 15:00称名廊下出口|オンサイト|ワンプッシュ|ボルト不使用|R&S106 ON SITE 03 掲載)
メンバー:大木輝一|鈴木助
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