「これ、いけそうやな」「そうすね。去年は恐怖しか感じなかったけど今は綺麗、って感情が優ってる」「状況次第でこんなに印象変わるもんなんやな」
昨年(2024年)、登別渓谷の2km近く続くゴルジュを10時間遡行した我々の前に現れたのは、幅1m落差5mの屈曲した水路を、膨大な水量で満たす「絶望の滝」だった。夕暮れが迫るゴルジュ内で、人類の接近を拒絶するかのようなプレッシャーを放つその滝を前に、我々はなすすべなく撤退するしかなかった。
登別渓谷は日本屈指の大水量ゴルジュだ。これに匹敵する大水量ゴルジュは日本ひろしといえど、数えるほどしかない。しかも、登別渓谷の遡行を完遂したものは未だ居ない。
心の隅に引っかかっていた、日本の残り少ない魅力的な課題に決着をつけるべく、2025年9月、一年ぶりに北海道の地へと降り立った。(2024年訪問時の記録はページ下部)
登別渓谷|沢登り(絶望の滝〜)|2025.9.18
メンバー:ゴルジュスズキ|木村商店
昨年の課題に決着をつけるべく、絶望の滝下流に降り立つ。
時刻は10:00。昨年、夕暮れが迫る薄暗い空間で感じたプレッシャーは、今日は、ない。ミルキーブルーの水流と、轟音を響かせる水路。有機的な侵食を見せる側壁からは幾重にも支流滝が流れ落ち、清々しささえ感じる空間だ。
十分な光量により照らし出された側壁に登攀ラインが見える。エディに乗りカンテへ、そこからスラブ面に移っていく。登別渓谷のような大水量水平ゴルジュでは、墜死よりも溺死のリスクが高い。中間支点は後続の離水用に一箇所だけとり、フリートラバースしていく。
スラブ面は途中で傾斜を増し、その先で垂直以上の侵食を見せる釜へと続く。前進するには登別渓谷核心部の激流水路を対岸に飛び移るしかない。ヴェールのように落ちる右岸の滝裏に、一畳ほどの空間がみえる。意を決してスラブから対岸へと飛び移った。
振り返るとゴルジュ内に立体的に張り巡らされたロープが見えた。やはり、ゴルジュ突破は面白い。発想次第で無限の楽しみ方があるのだ。
その先も、側壁をギリギリ掠めながらのジャンプやトラバースを続けると、100mほどで核心ゴルジュは終わった。すぐさま現れる2mCSにて谷は平凡になり、登別渓谷の登攀は終わりを告げた。
わずか二時間ほどの時間ではあったが、心に引っかかっていたものが取れ、実に晴れやかな気分だった。




総評
日本を代表する大水量ゴルジュ。新登別大橋から入渓し、核心ゴルジュを抜けるまでに約13時間。足の速いパーティーなら日帰り遡行の可能性も感じる。
水路系の大水量系ゴルジュとして、称名廊下、融雪沢大ゴルジュ、登別渓谷の三本が(私の知る限り)日本を代表する三本と言って良さそうな充実した内容。
遡行には激流へのタクティクスが必須となるため、キャニオニング知識のないパーティーだとリスクが増大するかもしれない。
※tamoshima氏により2025年8月に下降されているが、私の感覚では結構リスクのある内容なので要注意
登別渓谷の場所
2024年の記録
北海道には未知のゴルジュが眠っている。2024年9月の北海道遠征の主題であったユウセツ沢を遡行した我々が次に向かったのは登別温泉の程近く、登別渓谷だ。以前、遠征の計画をする際に目をつけていた渓谷の一つで、昨年tamoshima氏により一部開拓されている。2024年夏、氏と面会した際に北海道遠征の話をすると、面白いゴルジュがある、と登別渓谷をオススメされた。なんでも氏をして撤退を余儀なくされたほどの渓谷で、半分以上のセクションが未知のまま残っているというではないか。
登別渓谷の集水域は30km2。地質・勾配などの条件は九州の由布川渓谷と酷似しているが、比較にならないほどの大水量だ。終始脱出困難な水路に大水量、なんとも魅力的な組み合わせに吸い寄せられ、遠征の日程に組み込むことにした。
登別渓谷|沢登り|2024.9.8
メンバー:ゴルジュスズキ|木村商店|リュウスケ
登別渓谷は終始険しい地形を連続させ、地形図からの推測ではゴルジュの全長は2km以上。途中でのビバークができない可能性があるためワンデイでの遡行を目標に未明に新登別大橋からアプローチする。
薄暗い中遡行開始するとすぐに激流の水路が連続するようになった。しばらく進むと側壁トラバース以外で通過できそうにない水路や滝が連続し、ついにCS2mで高巻きを選択。高巻きもボロボロの側壁を慎重に登る必要があり結構時間がかかる。
昼前に記録が残る最後の滝2mに到着。小さな滝だが磨かれた側壁と大水量により登攀は一筋縄では行かない。ここからが登別渓谷の核心部だ。
2mは右からボロボロのリスを使いA1で登攀。その後も難しいCS滝が2つ続き、トップを交代しながら核心部を通過する。核心部の通過に時間がかかり残り時間は少ない。だがこの先に続く未知の空間に吸い寄せられるように奥へと進んでいった。
渓谷内が薄暗くなり始めた16時。激流の水路を空身で泳ぎ抜けた先に絶望的な光景が広がる。垂直以上に聳える側壁のなか全水流を幅1mまで収束させ5mの高さを三段に分割し落ちる絶望的な滝。側壁からは支流滝が幾重にも水を落としヴェールのように滝を覆い隠している。どう考えても絶望的な、人類が近づいていいような代物ではないが、その裏腹になんとも神秘的で美しい景観だった。
時刻も遅い。登別渓谷から脱出するには1kmほど戻り側壁を登攀して脱出するしかない。今の我々にできるのは足早に引き返すことだけだった。










総評
日本を代表する大水量ゴルジュ。命に関わる水流が至る所にあり突破には総合的なリスク管理が必要。上部セクションはいまだに記録がなく未知が残る。