日本百名山のひとつ、徳島県の剣山。
山頂一帯に広がるなだらかな笹原はよく知られていますが、その南面には、あまり知られていない少し不思議な地形が隠れています。その場所にあるのが「ホラ貝の滝」です。
ホラ貝の滝は、剣山が古くから信仰の山として人々の生活や精神文化と結びついてきた中で、その周縁に生まれた存在だとされています。修験道や山岳信仰との関係が語られることも多く、かつては修験者の修行場、あるいは行場のひとだったとされています。
とはいえ、堅い歴史の話はこのあたりにしておきましょう。
ここからは、実際に現地を訪れた個人的な視点で、ホラ貝の滝の特徴について触れていきたいと思います。
一般的にホラ貝の滝と呼ばれているのは、下段にかかる落差およそ18メートルの滝です。切り立った岩壁の中央を、すだれのように水が滑り落ち、小さな滝壺を持っています。剣山山頂のすぐ近くという立地もあって水量は多くありませんが、周囲の岩壁と合わさることで、静かながらも印象に残る佇まいを見せてくれます。
しかし、この滝の特徴はその上部に隠されています。

ホラ貝の滝の左岸(下流に向かって左)の急斜面を登ること十数分。上部から見下ろすと、深く刻まれた狭谷が姿を現します。こうした地形はゴルジュと呼ばれ、曲がりくねった岩の壁に囲まれた空間は、まるで巨大なホラ貝の内部に入り込んだかのような感覚を覚えます。
ゴルジュ最上部には落差およそ7メートルほどの滝があり、そこから約30メートルにわたって屈曲した水路が続き、その先に下段のホラ貝の滝が現れます。ごく短い区間ではありますが、水の力だけで削り出されたこの造形を目の当たりにすると、ホラ貝の滝が長い時間をかけて信仰の対象として扱われてきた理由が、少しだけ実感として伝わってくる気がします。
補足説明
ホラ貝の滝が位置する地質は「チャート」と呼ばれるもので、固く、崩落しずらい特徴をもちます。剣山の脆弱な地質のなかに、局所的に露出した頑丈な岩が、長年侵食されることでこのような得意な景観を生み出しています。
場所は離れますが、同じ地質の渓谷(ゴルジュ)として、高知県「中津渓谷」が挙げられます。こちらもチャートの頑丈な地質が侵食されることで、県下きってのの渓谷美を誇っています。
ホラ貝の滝の場所
【アクセスに際する注意】剣山スーパー林道からの登山道は一般登山道ではありません。崩落箇所、道筋が不明瞭な箇所などありますので注意。剣山スーパー林道はホラ貝の滝の入り口となる登山口まで普通車で侵入可能(通行止めに注意)。登山口からホラ貝の滝まで約2時間。
初心者の方の、無難なアクセス方法としては剣山山頂からのピストンを推奨します。


