「今だっ!キム!」「グッ……ウッ! アアッ……ゴホッ、ゲホッ、ガッホッ……オエッ……ヒューヒュー……ッ!」「熊スプレーってほんとに効果あるんだ笑」「さすが世界最強、容赦ないな。ブレないっすね」
「苦しいというより鼻の下とか顔面が全体的に痛い」「早く顔洗いたい」「顔いてー」その後しばらく苦しむことになる、木村商店を眺める大西はどこか満足そうだった。
北海道の大雪山系には魅力的な渓谷が多い。「融雪沢」「アイシポップ川」「電気の沢」など、日本に数多ある渓谷の中でもひときわ個性を放つ谷がまとまって存在しているのだ。
昨年、「融雪沢」「アイシポップ川」を訪れ、その魅力に取り憑かれた私は、この界隈でまだ未知が残された渓谷はないかと改めて地形図を眺めていた。すると、忠別川の支流のひとつ「ピウケナイ川」に、いくつか特徴的な地形があることに気づく。
ピウケナイ川で気になるセクションは主に三つ。一つ目は上流部にある落差100m以上のゴルジュ地形二箇所。二つ目は中部二股から下流の大岩壁地帯。そして三つ目は下流部の水平ゴルジュだ。ピウケナイ川の遡行記録自体はいくつか存在するものの、これらのセクションに関する情報は皆無である。
周辺の同じ地質帯には、日本を代表する美渓「アイシポップ川」があり、とんでもない景色が眠っているかもしれない。
ピウケナイ川|キャニオニング|2025.09.15 – 16
メンバー:危ない男大西良治|ゴルジュスズキ|危ない男テル|木村商店
記事の内容
一日目
昨年から何度も利用している旭岳ロープウェーに乗り、ピウケナイ川源頭へ。出会いからすぐにかなりの水量があり、パーティーの期待が高まる。が、最初のゴルジュマークまでは何も現れず、河原歩きが続く。
上流部一つ目のゴルジュマークに差し掛かると、早速見栄えの良い大滝が現れた。地形図から想像したような狭いゴルジュではないが、水量や周囲の岩壁など迫力があり、見栄えは十分。大滝以降のいくつかの滝をクライムダウンすると、最初の核心部はあっけなく終わった。
上流部二つ目のゴルジュマークでは、釜を持つ滝がいくつか現れ、15〜20mほどの滝を織り交ぜてゴルジュが展開されていく。時にラペルを交えながら下降していくと、ゴルジュ出口には50mの大滝が現れた。過去の記録からその存在は認識していたが、これほどの大水量・大落差とは思っておらず、嬉しい誤算である。
この滝は水量や落差が大きいだけでなく、左右対称の岩壁が迫力を増しており、何度も振り返っては写真を撮った。
しばらく河原を歩くと、キャンプ地に適した平坦地が現れ、C1とした。
二日目
冗長な河原歩きが続く。辟易してきた頃、ピウケナイ川中流部の二股に差し掛かる。
予想では大滝の一つくらいはあるのではないかと期待したが、急勾配のゴーロがあるだけで、意外な発見はなく残念だった。
この先も河原が延々と続く。途中、廃林道が現れる地点で脱渓し、下部ゴルジュを偵察できる位置まで林道を歩いた。
林道をしばらく進み、下部ゴルジュ付近に到達。いよいよ一番期待していた下部ゴルジュの偵察だ。偵察といっても歩いて入るのではなく、ドローンによるもの。ドローンは今春の台湾遠征でメンバーが持参していて、その便利さに驚いたことから導入した装備であり、記録映像としてはもちろん、今回のような偵察にも大きな威力を発揮する。
さて、下部ゴルジュはというと、確かに側壁が立ち水路が連続する険しい地形ではあるが、谷幅が広く、ゴーロとなっていてどうにも魅力に欠ける。核心となるセクションも100mほどと短く、林道歩きで装備が乾いてきた今、改めてウェットスーツに身を包み突っ込むモチベーションも湧かなかった。
ドローン偵察で十分に内容は判明した、ということにしてそのまま下山することにした。














下降図

中部二俣以降は下部ゴルジュまで河原なので省略
総評
いくつかの大滝には特徴があるが、大半のセクションは河原となっている。ゴルジュも開けたものが多く、想像していたような険しい地形は現れなかった。遡行の場合は、それぞれの核心部入口の大滝の登攀が難しく、河原歩きと高巻きに終始するだろう。
