「食料節約しなきゃ」
初日の夜だというのに大西はアルファ米を半分にして食べていた。
「もうシリアルすこししか食料残ってない」
予定日を一日過ぎた三日目。まだ源頭まで標高差400mの藪漕ぎと下山が残っているが、時刻は16時。わずかな食料を大西に分け与え先へと進む。
車に着く頃には時刻は23時を回っていた。
北海道は道南地方の「須築川」は、「北海道を代表するゴルジュ」だという。正直なところ、私好みの渓谷ではないのだが、沢登りのやりすぎで行きたい渓谷がなくなり、日本百名谷ハンターと化している大西がどうしても行きたいというので仕方なく遠征計画に組み込むことにした。
須築川||支流キャニオニング|本流沢登り|2025.9.3 – 5
メンバー:大西良治|ゴルジュスズキ
2025年9月1日深夜。小樽で大西と合流すると、想像以上の大雨が降っていた。ひとまず翌日の9月2日は減水を待つこととし、3日入渓とした。
2日。小樽から道南へとダラダラ移動しながら、地形図を確認する。
「これ、核心部まで3時間河原歩きらしいですよ」「下山めっちゃ長いしだるいね〜」「源頭から東に降りらレる登山道使えれば早いんですけどね。あ、そうだ、この滝記号いっぱいある支流下降して核心部から上流だけ遡行しませんか?」「いいね、それ。登山道歩き半分になるじゃん」「小渓谷だし一泊二日でいけそうっすね〜」
一日目
登山道で800mハイクアップし、藪漕ぎを続けること二時間。ボサボサの薮の間を流れる支流源頭にようやく到着した。時刻は15時半。少し進むと核心部に突入しそうだ。半端な時間ではあるがC1とした。一泊二日の予定なのにここでC1にして本当に大丈夫か?という疑念がよぎるが仕方ない。
二日目
C1から少し進むと、突然谷が開け、大滝が現れた。その先には細く狭窄されたゴルジュが遠望できる。
大滝を下降し、ゴルジュに入って行く。ゴルジュ内は幅1mほどまで細くなり、10mほどのCS滝を連続させる。登攀では相当難しい地形をしており、おそらくここに足を踏み入れるのは我々が最初だろう。ときに30m近くある大滝が現れるなど、ゴルジュの内容は非常に濃いものだった。
一泊二日想定で入渓していることもあり、昼までに下降を終え、本流の核心部を遡行してしまいたいところだ。しかし、最近ドローンを買った大西が、見栄えの良いセクションに差し掛かるたびドローンを飛ばし、なかなかペースが上がらない。まあ、どうせバッテリーすぐ切れるでしょ、と思っていたら、なんとオプションの大容量バッテリーを三つも持ってきているではないか。
14:30。支流の下降終了。この支流は本流の核心部のすぐ下に合流するので、遡行を開始すればすぐに核心部となる。これから核心部に入って行くには遅すぎる時間と、目の前の極上のテン場に、本日の行動はここまでとした。
大西の食料が心配だが、当の大西はドローンのバッテリー三つを使い切るまで空撮を堪能し、なんとも満足そうだった。
三日目
予定日を一日オーバーしているが、これからが須築川の核心部だ。C1から30分ほど進むと側壁が立ち上がり、顕著なゴルジュ地形となる。釜付きの滝や水路が連続し、景観が良い。ときに名谷「五十沢」を彷彿とされる空間が現れるなど、楽しませてくれた。
ハイライトはゴルジュ最深部の3m滝。普段なら水流近くの水平クラックをエイドで登ってしまうところだが、なんだかボルダーのように登ることもできそうだ。
「右のクラックいい感じだね〜」「確かに。フリーでトライしますか?」「これはやるしかないでしょ〜」「OKです。俺が先に行っていいですか?簡単だったら大西さんやってもしょうがないでしょ」
エディに乗って釜を泳ぎクラックに取り付く。二手進むと一段上に乗り上がらなければならないが、スタンスがない。右側の凹角にヒールフックし、外傾したリップを取る。もう一手進むがその先が遠い、、、フォール。
「普通にむずいですけど、大西さんならいけるかも」「いい感じだね、ちょっと装備外して行ってみるね」
大西がトライ。二回ほどフォールするが、途中でヒールフックを外して足を切り、反対のスタンスに乗り込むことで先に進めるラインが見えたようだ。結局、七回ほどのトライで登攀成功。嬉しそうなガッツポーズに、普段はボルダリングに全く興味がない私でも、ボルダリングのロマンを感じた。
「いいラインでしたね〜どのくらいのグレードですか?」「沢靴で濡れた装備なら初段くらいかな?一手ずつ解明して行く感じのいい課題だった〜」「初段じゃ俺登れそうにないけどボルダリングのロマン感じました」
核心ゴルジュを抜けると谷は一旦開ける。いくつかの登攀困難な滝を高巻きでやり過ごしたり、見栄えの良い滝を爽快に登攀したりしながら越えていく。
日没直前。まだ源頭の藪漕ぎが残っているが、食料の残量からしてなんとしても今日中に下山しなければならない。大西いわく”小楊枝川を越える最強クラスの藪漕ぎ”をこなし、ヘッドライトで下山した。












総評
須築川本流のゴルジュは、ゴルジュ遡行の様々な技術を要求されるが、難易度は高くなく、中級者以上であれば万人にお勧めできる。源頭の藪はかなりウザい。
支流のゴルジュ連瀑帯は、細く狭窄された地形の中に険悪な滝を連続させる。その内容は山形県「浄の滝」に負けずとも劣らない(浄の滝は水線登攀可能という点は異なる)ものだった。