五十沢。以前から強く惹かれていた渓谷だった。遡行した者は口を揃えて “日本を代表するゴルジュ” だという。
素晴らしい対象なら最高のスタイルで挑戦したい。我々に可能な限り水線に肉薄し、下部から上部まで遡行する。五十沢下部〜上部ゴルジュ4daysワンプッシュを決行した。
五十沢|沢登り|2023.9.1 ~ 4
メンバー:ゴルジュクラブ1名|紀伊半島彷徨クラブ2名
1日目
五十沢キャンプ場のゲートが開くのを待ち、上部駐車場からスタート。この後3日間は快晴の予報。9月に入りトンボが出ているからかアブはほとんどいない。
快適な遊歩道をたどり不動滝に到着。左からエイドを交えて登攀できそうだが、水線から離れた登攀ラインかつ高巻きが容易な地形にモチベーションが上がらず左岸から小さく巻く。
高巻き終了。滑りが強くタワシをかけながら小滝を越える。
側壁が立ち、ゴルジュの様相を呈してくる。CS15m夫婦滝は右凹角からA1で離水、直上して1ピッチ目終了。2ピッチ目は落ち口に伸びるクラック沿いにフリーで突破を試みるもホールドとして期待していたフレークが想像以上に悪くフォール。2トライ目はクラックでA0を繰り返し落ち口に立つ。
本日の核心となったCS3m。渇水していれば右の水流を超えられそうだが、今日の水量では無理。CS左をハンマー投げで越えるが周囲の岩形状が非常に悪く、もがき苦しむことになる。セカンド以降はCS真上にザイルを垂らしユマーリングした。
下部ゴルジュ終了。たった300mほどの距離に7時間もかかり、明日以降が不安になる。結果的には4日間の中で一番苦労した1日となった。
天候は安定しているのでテン場は取水堰堤上流の砂地にした。瀞になっていて水流の力は弱く、上流で用を足したメンバーの○○○がずっと漂っていた。アブはいないがブヨが多く鬱陶しい。
2日目
過去の記録によると五十沢の行動時間は長い。ゴルジュ内で時間切れにならないよう6:00出発とした。すぐに核心とされる1m滝に到着。
水流に逆らいながらの奮闘を覚悟していたが、青いロープが垂れ下がっていて簡単に登れてしまった。キャニオニングアンカーに沢ヤがロープを残置したのだろうか?少しやりすぎ感があった。
2日目の核心2つ目となる5mCS下部の水路。偵察したところ意外と登攀できそうなので釜横のスラブに一旦集合。
スラブからフレークに浅利きさせたペッカーとアブミでA1して3メートルほど上部の落ち口まで伸びるクラックへ、。クラックのトラバースはマイクロカムとハーケンでA0。落ちたらそこそこヤバそうな水流のため慎重に登る。
夫婦滝はエディに乗り右の凹角から。バンドをトラバースして上部に降りたつ。
7mCSは左岸のポットホール状から高巻き。1ピッチ目は10mほど上の灌木まで。残地リングボルト2。2ピッチ目は灌木から左に伸びる草付きバンドを25m先の灌木までトラバース。そこからは大窪沢出会までフリーでクライムダウンした。所要時間1.5h。
大窪沢出会以降は特に難所はなくサクサク進む。巻機沢(本沢)出会いにて行動終了12:30。相変わらずアブはいないがブヨに加え蚊が多く鬱陶しい。
少し前に遡行したパーティーがいるらしく、整地済みだった。昼から酒を飲み、盛大に焚き火をして就寝。
3日目
2日目同様6:00出発。4mCSが出口を塞ぐ小ゴルジュを左岸から小さく巻くと、すぐに上部ゴルジュが始まる。暗く、傾斜した幅2mほどの水路は水の侵食というより、節理の崩壊による造形のようだ。
水路奥の5mCSは右からA1。残地スリング1、ハーケン1。落ち口への抜けが少し緊張する。
なんという地形だろうか、先ほどの水路から谷は90度以上屈曲し、さらに狭くなっていく。ここからが上部ゴルジュの核心だ。
上部ゴルジュ最狭部。先ほどの水路とはうって変わり水の侵食によるグロテスクな造形となる。
上部ゴルジュ序盤の核心7mCSは右岸クラックに可能性を見出しトライ。A1で落ち口に抜けようとするも最後の3mトラバースがブランクセクションで落ち口左のブッシュへとかわす。ブッシュから沢への復帰5分。
7mCS落ち口で一旦谷は開けるが間髪入れずに次のゴルジュが始まる。特に難所はなくフリーで突破。
下カケズにて谷は一旦開ける。ここから熊沢までは歩き。
熊沢出会からゴルジュが再度始まる。入口の1mCSは左からハーケン・カムでA1。
この辺りの造形は特に素晴らしい。
一見して絶望的なCS7m。リングボルト・スリングの残置があるが、抜けで相当の奮闘が必要そうなので戻って熊沢から高巻き。所要時間40分。
高巻き後は特に難所はなく、散発的に登場する滝を登ったり小巻きしたりしながら高度を稼ぐ。標高1200m付近で幕。14:15。風が抜けるからか害虫のいない快適なテン場だった。
4日目
裏巻機登山道での下山は相当時間がかかるらしい。余裕を持って4:30スタート。
1300m付近の分岐で永松岳にダイレクトに突き上げるスラブを選択したところ、あっさり頂上に出る。そこからの藪漕ぎも笹が主体で覚悟していたほどの厳しさはない。
メンバーの2人は私より1回り近く若いのに先頭に立って藪漕ぎしようとしない。代わってくれというのも疲れているみたいで癪なので無言で藪漕ぎ。
巻機山から割引岳を経由して下山。裏巻機登山道は100名山とは思えないほどショボいが、悪いというほどではない。泥斜面が多いので悪天候時は大変だと思う。意外とアッサリ駐車場に到着。12:05。
感想
これほどゴルジュが繰り返し現れる沢は珍しい。そのどれもが一級品で、バラエティにも富んでいる。源頭部の巻機山も百名山なだけあり風光明媚で満足のできるものだった。
花崗岩の渓谷には有名なゴルジュも多いが、その中でも特に素晴らしいゴルジュが繰り返し現れる。特に上部ゴルジュの狭くグロテスクな造形は他に類を見ないもので、これだけのために訪れる価値がある。
記録の多い沢であり、残置は多い。いくつかの核心部分には絶妙な高巻きラインが用意されているが、大高巻きを選択すると苦労しそうな地形が多い。
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