移住してからの仕事|アウトドア体験を豊かにする道具を作る

古民家リノベーションなど住まいのことばかり記事にしていましたが、これまで書いてこなかった私の仕事について書こうと思います。

私が高知に移住した理由は「高知の自然が好きだったから」というシンプルなものです。なぜ高知限定なのかといえば、観光地化されていないプリミティブな自然がいたるところにあるから、ということになるでしょうか。

私と高知の最初の出会いは、学生時代に彼女(現在の妻)としていた車中泊旅行でした。台風で有名な岬があるらしい、ということで室戸岬を訪れたあと、その日の温泉に選んだのが馬路温泉でした。私の経験則での温泉というものは、周辺が観光地化されていたり、それなりの街中にあったりするんですが、馬路温泉は違いました。道中に街灯は一切なく(記憶の中では)、水流が轟音を轟かせる渓谷沿いの細い道。とてもこの先に温泉があるとは思えませんでした。

「引き返そうか?」とか何回も車を停めて、ビビりながらたどり着いた馬路温泉。聞けばここは人口千人もいる村の中らしい(明かりがほとんどないので村だと思っていなかった!)。これほどの山奥に千人も住んでいる村がある高知、マジでやばい。今となっては高知の標準的田舎道って感じで鼻歌まじりにドライブしている馬路温泉への道ですが、当時の私にはかなり衝撃的だったのを覚えています。

数年後、仕事の縁で高知で暮らすことになるのですが、正直なところ戸惑いました。東京で育った私には観光地化されていない、本当の田舎での楽しみ方がわからなかったのです。最初の1年間くらいは観光客気分で情報誌やネットに載っている観光地に足を運んでいたのですが、どうも楽しくない。日本各地の観光地を学生時代に車中泊で巡りまくった私にとって、高知にある観光地はありふれたものでした。まあ、これは長野が良くて、これは北海道が良くて、とか比べてしまうので勝てるわけがありません。

これといった楽しみ方を見つけられないまま迎えた二回目の夏に転機が訪れます。次の休みに行く予定の安居渓谷という場所を調べているときに、Googleの検索結果にヘルメットをかぶり滝を登っている人物の写真を見つけたのです。その異質感からか、なんとなくそのサイトをクリックした先で、沢登りというスタイルの登山があること、高知には沢がたくさんあることを知ります。
無知の怖いところで、なんか沢登りってのが楽しそうだ、ってことで妻と二人、安居渓谷で沢登りをしたのです。運動靴と綿シャツという挑戦的なスタイルで沢登りに挑戦した私たちは、苦労しながら淵を越え、滝を越えていったのですが、これがなんとも楽しかったのです。危険だとか怖いとかいう感覚よりも、誰もいない・道もない場所を自分でルートを決めて歩く、という感覚に高揚したことを覚えています。

この体験を機に、冒険的な楽しみ方を始めたことで高知への愛着が育まれていくことになります。全国18位の面積を持つ高知県全体にたった70万人の人口。未開の地が多いのは当然のことで、ほとんど情報もない、それでいて素晴らしい場所がたくさんありました。
ハンターしか足を踏み入れないような場所に入っていく、若干エクストリームなアクティビティにはまっていき、仕事の都合で地元東京に帰るまでの数年間遊び続けます。このサイトの記事もその4年間で訪問した場所がほとんどですね。そして、転勤により地元東京に帰ったものの、高知なしでは生きていけない体になっていた私たち夫婦は1年そこそこで東京を捨て、高知に帰ってきたのです。

前置きが長くなりましたが、仕事のことについて

好きな場所に住みたい、というワガママな理由で移住してきた高知、仕事もワガママを貫いてみよう、ってことで大好きなアウトドア用品を作ることにしました。今年の2月には「アウトドア豆炭こたつ」というアウトドアで利用できるこたつを発売(取扱店様・購入者様お世話になっております)、つい最近も長年作りたかった新商品を発売することができました。

私が”わざわざ”自分の手でアウトドア用品を作る理由ですが、高知での体験がもとになっています。アクティビティにハマっていくなかで、”アクティビティ”と”ステイ”のバランスがとれると、経験がより豊かになることに気づきます。当然、アクティビティ自体は楽しいのですが、それだけだどアクティビティという切り口でしか空間を楽しめない。その場にある程度とどまって(ステイ)することで、アウトドア体験はもっと豊かなものになる。
薄暮の空に星がきらめく瞬間・朝日が昇り霧が晴れていく瞬間など、一定時間とどまらないと体験できないことが結構多いのです。でも、とどまれば良いってわけではなく、質も大切にしたい。会心の登山をしたあとに星空の下、愛車でゆっくりする時のような経験を気軽にできたら・・・でも、アスリートのようにトレーニングしているわけではなく、体力差のある妻と常に一緒なので、ハードなことはたまにしかできない。持っている道具で、この悩みを解決できないのは明白でした。

気軽にステイしたい、そしてアウトドア体験の質を上げたい。目的の達成にはいくつかの問題点がありました。
一つ目は、ステイするための道具を持ち出すのが大変なこと。テント・シュラフ・テーブルといった道具はかさばるものが多く、家の中から持ち出すのに手間がかかりました。
二つ目は、ステイの質を上げるためだけに新しい道具が必要なこと。アクティビティに役立つ道具とステイに役立つ道具というのは全く別物であることが多く、その両方を揃えるのは金銭的・保管場所的・さらには車のラゲッジスペース的にも厳しいものでした。
三つ目は、既存製品でステイに役立つ道具は、その多くが設営に時間を要すること。時間の限られた休日で、設営に時間が掛かるというのは結構致命的で、なんとしても設営時間を短縮する必要がありました。

そもそも自宅での準備や現地での設営に手間がかかってしまうと、本来は楽しいはずのアクティビティがストレスになってきます。そうなってくると、アクティビティが”メンドくさいもの”になってしまうことすらあります。逆に、可能な限りストレスなく利用できる道具を作ることで、アウトドア体験はもっと豊かになるのではないか。その思いが自分の手でアウトドア用品を作るモチベーションになっています。

senbonnyama2

少し長くなってきたので一旦ここで終わります。なぜ製品をハンドメイドするのか、なぜ、それがが高知に合っている(と思う)のかなどは、別の記事で書こうと思います。

コメント

コメントを残す

*