記事の内容
想定読者と記事の目的
当記事は、「ハイキングの経験はあるけど、沢登りは初めて」という読者を想定した、沢登りの始め方ガイド Part.2 です。
これから沢登りを始めるあなたが、安心して沢登りを始められるように、下調べやアプリの活用など、実践的な内容を解説しています。
各記事の内容は以下のとおりです。
沢登りの始め方ガイドPart.1 「最初に揃える装備」「前提知識」「行く渓谷の選び方」など
沢登りの始め方ガイドPart.2 「地図読み」「下調べ」「アプリの活用」「保険」など
沢登りの始め方ガイドPart.3 実際の沢登りにおける入渓から下山までのワークフロー
レベルごとに記事を用意しています
初級者:沢登りを始める前 / ロープ不要の沢登り
中級者:ロープが必要な沢登り(グレード〜6級)
上級者:ごく一部の困難な渓谷 / 開拓的な沢登り
各レベルごとの記事は、以下のリンクからご覧いただけます。
行きたい渓谷の下調べの方法
2つのアプローチから行きたい渓谷を探す
1. 難易度から探す(ガイドブック)

初心者にもっとも安全なのは、難易度を基準に渓谷を選ぶ方法です。人気の渓谷には「グレーディング」と呼ばれる難易度評価が公開されており、それを目安にすれば、自分の力量に合った渓谷を選ぶことができます。
特に初心者は、沢登りガイドブックの活用がおすすめです。ガイドブックには各渓谷の難易度をはじめ、渓谷の地図である「遡行図」が掲載されていて、具体的にプランを計画できます。
ガイドブックの弱点としては、近年あたらしく開拓された渓谷や、難度の高い渓谷の情報が掲載されていないこともありますが、最初のステップとしてはもっとも無難で安全な選択肢といえるでしょう。
2. 見た目から探す(写真集・SNS)

写真集やSNS・ブログで見かけた「魅力的な渓谷」に憧れを抱き、そこに行きたくなることもあります。これらの情報源には、難易度や詳細情報が記載されていないことも多いですが、ご安心を。
このあと紹介する、「YAMAP」「スーパー地形」などのスマホアプリを使い始めると、その渓谷の最新の情報が、正確に分かるようになります。
初心者のうちから「行きたい渓谷のリスト」を作っておくと、次のステップアップのモチベーションになります。実際に行けるかどうかを調べる過程そのものが、沢登りの力を伸ばすトレーニングにもなります。
筆者推薦・沢登りのロマンを感じられるサイトたち
Tips|沢の魅力を感じるブログサイト
※全く初心者向けではありません
ポムチム:何しろ写真が綺麗!東北を中心とした渓谷美をクオリティの高い写真で見ることができます。こんなブログが無料でいいの?
SOLOIST:すでに更新停止しているブログだが、「沢登りの神」こと大西良治氏の活動記録を見られる貴重な記録
GORGE CLUB(筆者):大西良治氏に影響を受け、ゴルジュに魂を捧げてしまった筆者の活動から選りすぐった記録
記事執筆者PR
渓谷写真集「渓谷観光」
日本各地の渓谷を、大判の写真で紹介する写真集「渓谷観光」シリーズ。
私たちGORGE CLUBの活動から、特に印象に残った渓谷美を、A4フルカラーでたっぷり100P掲載。2025年7月、Vol.1 発売。
スマホアプリの活用方法

もはや「最重要装備」のスマホとアプリ
沢登りでもっとも身近で頼れる道具のひとつがスマートフォンです。地形図やログの記録はもちろん、計画段階での下調べにも役立ちます。ここでは代表的なアプリを、ステップに分けて紹介します。
最初に選ぶなら:「YAMAP」
初心者がまず導入したいのは「YAMAP」です。オフライン地図に対応しており、電波が届かない谷底でも現在地を確認できます。YAMAPでは、足跡機能により、人気の渓谷であれば大抵の場合はどこが歩かれているのかわかりますので、地図読みに慣れていない初心者でもこれに従うだけで道迷いリスクがほとんど無いのが魅力です。
競合アプリとして「ヤマレコ」がありますが、筆者はヤマレコを使用したことがなく、使用感の比較レビューはできません。それぞれのアプリに、自分の活動を投稿するSNSのような機能がありますが、そこから分かるユーザー層の違いは以下の通りです。
YAMAPは画面が直感的で使いやすく、行動ログの記録やコミュニティ投稿も活発なので、最新情報を得られやすいのが特徴です。
ヤマレコはユーザー層に沢登り熟達者が多く、あまり有名でない渓谷の情報でも見つかることが多いです。情報の濃さで上級者に支持されている印象です。
まずは、この2つうち1つをスマホに入れておけば、沢登りの基本的なナビゲーションと情報収集に十分対応できます。
慣れてきたら:「スーパー地形」
経験を積んで、より詳しい地形の読み取りやルート検討をしたいと思ったら「スーパー地形」の活用を検討しましょう。国土地理院の地形図や数値標高モデルをベースにした地図アプリです。
スーパー地形は、YAMAPやヤマレコのようなガイド機能は少ない一方で、集水域や勾配の計測機能による客観的情報の把握や、地質オーバーレイ機能により(慣れてくると)事前に地質による特性が把握できることなどが強みです。
スーパー地形アプリの活用方法を次の章で確認していきましょう。これらが身についてくると、記録の少ない渓谷や難しい渓谷でも、事前にさまざまなリスクを判断できるようになります。
データから判断する渓谷の難易度
沢登りは実際に入渓してみないとわからない要素も多いですが、事前に「データ」で推測できるポイントがあります。特に次の4つの要素を意識することで、自分のレベルに合った渓谷を選びやすくなります。
先の項目で登場した「スーパー地形」で分かる点は、画像付きで解説しています。
渓谷の難易度を決める4つの要素
※次項から登場する画像は「スーパー地形」アプリのスクリーンショットを使用しています
1. 水量(集水域)

「ツール」を選択

「測定」を選択

渓谷の周囲を囲む尾根を繋ぐ円を作り「完了」を選択

「面積」に表示されるのが集水域
水量は渓谷の難易度に直結します。集水域が広いほど水量は増え、水に起因するリスクが上昇します。「水が多い」「水が少ない」ではなく、集水域で判断することで、より現実に即した渓谷の水量を予測できます。
〜4平方km:小渓谷。水流に起因するリスクは比較的少ない
Tips|集水域の目安
5〜9平方km:一般的な規模の渓谷で、増水時に危険な水流が生じる可能性が高い
10平方km〜:規模の大きい渓谷で、平水であっても危険な水流が点在する
集水域以外に水の量に影響するのが「雪渓の有無」「直近の降雨量」です。これらは時期やタイミングにより変動しますが、その影響は大きいです。
Tips|水量に影響する変動要因
秋まで雪渓が残ることの多い雪国の渓谷では集水域以上に水量が多いことがあります。直近の降雨量が多ければ、当日に雨が降っていなくても増水の影響が残っていることもあります。
2. 行程の長さ

「ツール」を選択

「測定」を選択

渓谷に沿ってポイントを追加していき「完了」を選択

「距離」に表示されるのが行程の長さ
行程が長いほど体力的な負担は大きくなり、途中での撤退やエスケープも難しくなります。地形図で距離や標高差を確認し、実際にかかる時間を想定しましょう。とくに下山路まで含めた総合的な行程時間を把握することが大切です。
初級の、歩き中心の渓谷の遡行スピードの目安は、1時間に1キロメートルくらいです。これは勾配の少ない区間で、ロープなどをあまり使用しない場合の速度です。
ロープが必要な場所の通過には、とても時間がかかります。初心者のうちは、ロープを一回出すたびにプラス1時間かかる、くらいのつもりで時間に余裕を持ちましょう。
下山は一般的に、ハイキングコースや林道を利用して行います。一般的な山域であれば、YAMAPやヤマレコで標準的なコースタイムがわかります。
3. 勾配

「ツール」を選択

「測定」を選択

計測したい区間にポイントを追加していき「完了」を選択

「標高差 / 距離」が勾配(493 / 681 = 0.72 = 72%)
渓谷の勾配は滝の多さや高さに直結します。傾斜が急な渓谷ほど滝が連続し、ロープワークや高巻きが必要になる場面が増えます。単純に歩行負荷も上がりますので、傾斜の強い渓谷には要注意です。
目安として、ある区間の勾配が25%(例:水平距離100メートルで25メートル標高が上がる)を越えてくると、かなり滝が多くなってきて、通過に時間がかかるようになります。
4. 地域特性
地域ごとに特有のリスクが内在することもあります。個人的なイメージで、地域ごとのリスクを羅列してみました。
- 北海道:残雪・雪渓|ヒグマ|エキノコックス(寄生虫)
- 東北:残雪・雪渓
- 北陸:残雪・雪渓・アブの大量発生
- 関東:特に無し(一部山域にヒル)
- 中部:特に無し
- 近畿・中国:ヒル
- 四国:アブの大量発生
- 九州:特に無し
もしものための「山岳保険」「登山届」

山岳保険が必須の理由
沢登りを始めるなら、山岳保険への加入と登山届の提出は必須といえます。渓谷は一般登山道よりもリスクが高く、事故や遭難時には捜索・救助に多額の費用がかかることがあります。山岳保険に加入していれば、そうした費用やケガの治療費をカバーできるため、金銭面の不安を大きく減らせます。
各山岳保険ごとの比較をすると記事に収まりきらないので、参考になりそうなサイトへのリンクを掲載します。
山岳保険おすすめ13選!登山者が選ぶべき《単発契約と年間契約》タイプはこれだ(外部サイトへ遷移します)
登山届が重要な理由
多くの山岳保険は「登山届を提出していること」を適用条件としています。万が一の遭難時に登山届がなければ、保険金が支払われないケースもあるため注意が必要です。登山届は保険の条件を満たすだけでなく、救助活動を迅速に行うための重要な情報源にもなります。
コンパス:パソコンやスマホから提出でき、全国に対応する「コンパス」がおすすめ
Tips|登山届の提出方法
YAMAP/ヤマレコから:山行計画をアプリ内で作成し、そのまま登山届として提出可能
紙の登山届:山域の登山口や警察署・交番に設置されたポストに投函する伝統的な方法
GPS機器やココヘリとの関係
最近では山岳保険と連携できるGPS機器やココヘリ(会員制の救助要請サービス)を利用する登山者も増えています。これらを組み合わせることで、遭難時に位置情報を正確に伝えることができ、救助のスピードと確実性が大きく向上します。特に渓谷のように電波が届きにくい場所では、強い味方となります。
まとめ|三部構成で学ぶ「沢登りの始め方」
ここまでご紹介した内容は、沢登りの現場での流れを一日のワークフローとして整理したものでした。入渓から下山まで、実際の動きをイメージできたのではないでしょうか。
沢登りの始め方ガイドは、以下の三部構成でまとめています。
沢登りの始め方ガイドPart.1 「最初に揃える装備」「前提知識」「行く渓谷の選び方」など
沢登りの始め方ガイドPart.2 「地図読み」「下調べ」「アプリの活用」「保険」など
沢登りの始め方ガイドPart.3 実際の沢登りにおける入渓から下山までのワークフロー
初めて沢登りに挑戦する方は、この三部をあわせて読むことで、装備・準備・行動という一連の流れをしっかり理解できるはずです。ぜひ他の記事も参考にしながら、安全で楽しい沢登りを始めてみてください。
レベルごとに記事を用意しています
初級者:沢登りを始める前 / ロープ不要の沢登り
中級者:ロープが必要な沢登り(グレード〜6級)
上級者:ごく一部の困難な渓谷 / 開拓的な沢登り
各レベルごとの記事は、以下のリンクからご覧いただけます。
















