【沢登り初心者|Vol.3】入渓から下山までのワークフロー

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想定読者と記事の目的

当記事は、「ハイキングの経験はあるけど、沢登りは初めて」という読者を想定した、沢登りの始め方ガイド Part. 3 です。

これから沢登りを始めるあなたが、安心して沢登りを始められるように、実際の沢登りにおける入渓から下山までのワークフローを解説しています。

各記事の内容は以下のとおりです。

沢登りの始め方ガイドPart.1 「最初に揃える装備」「前提知識」「行く渓谷の選び方」など
沢登りの始め方ガイドPart.2 「地図読み」「下調べ」「アプリの活用」「保険」など
沢登りの始め方ガイドPart.3  実際の沢登りにおける入渓から下山までのワークフロー

レベルごとに記事を用意しています

初級者:沢登りを始める前 / ロープ不要の沢登り
中級者:ロープが必要な沢登り(グレード〜6級)
上級者:ごく一部の困難な渓谷 / 開拓的な沢登り

各レベルごとの記事は、以下のリンクからご覧いただけます。

はじめに:当記事の活用方法

沢登りの一日の流れを、入渓から下山まで順を追って解説するのが本記事です。ただし、ここに書かれていることを一度で全て覚える必要はありません。理解できていない部分があっても、実際の沢で一つひとつ経験していくことで、自然と身についていきます。

最終的な目標は「この記事を読まなくても、すべての流れを自分で理解して行動できる状態」になることです。その過程で、不安や疑問が出てきたら、その都度この記事を参考にしてください。

たとえば日帰り沢であえてビバークを体験してみる、滝の高巻きを複数の方法で試してみるなど、実地の学びは何よりの教科書です。そうした経験を重ねながら、本記事を確認することで理解がより深まっていくはずです。

沢登り前日

装備リストで装備を揃える

沢登りの前日は必ず装備を確認しましょう。忘れ物は大きなリスクとなり、山行中に取り戻すことはできません。リストを作り、一つずつ確実に揃えることが大切です。

初心者は特に、沢登り特有の装備を忘れがちです。沢靴、ヘルメット、ハーネス、防水バッグなどを重点的に確認してください。

また、ガス缶の残量、ヘッドランプの電池、行動食などの消耗品も前日に必ず準備しておきましょう。

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意外と忘れやすいもの

筆者やそのまわりで、実際に忘れた経験のある装備リストです。なかには「そんな物忘れる!?」と思うようなものもありますが、実際に何回も忘れているので要注意です。

  • デポした車の鍵
  • 沢靴
  • ヘルメット

登山届の提出

沢登りを安全に楽しむためには、登山届の提出が欠かせません。登山届は万が一の遭難時に捜索活動を迅速に行うための重要な手がかりとなり、提出していないと山岳保険の適用外になるケースもあります。

提出方法は大きく2つ。

  1. オンライン提出(コンパスなどのWebサービス)
  2. 警察署などに提出

オンライン提出なら、スマホやパソコンから簡単に行えるためおすすめです。沢登りでは一般的な登山口から始まるケースは多くありませんので、登山口のポストに登山届を提出する方法は使えません。

地形図のダウンロード

沢登りでは標識や案内がほとんどなく、ルートは自分で判断する必要があります。そのため地形図の準備は欠かせません。

特に重要なのが事前の地形図ダウンロードです。電波がある場所では表示できても、山中では圏外になり閲覧できなくなります。必ず端末に保存しておきましょう。

さらに、予備としてバックアップ用のスマホや、印刷した地形図とコンパスを持参することをおすすめします。

沢登り前日|天気予報と水量情報の確認

沢登りは天候と水量に大きく左右されるアクティビティです。前日に必ず確認しておきたいのが、山域の天気予報と水量の状況です。

特に注意すべきは「数日前からの累加雨量」。ダムの放流情報や河川の水位情報を提供するサイトもチェックしておくと安心です。

川の防災情報 – 国土交通省

川の水量チェックに使用するサイト

アクセスと駐車の確認

沢登りでは、登山口までのアクセスと駐車場所を事前に確認しておくことが大切です。調べていないと、当日に迷ったり駐車場所が見つからず出発が遅れる原因になります。

特に人気の山域では駐車が厳しく管理されている場合が多く、注意が必要です。また、公共交通機関でしか行けない場所もあります。

アクセスと駐車を前もって確認することで、当日の行動がスムーズになり、安全で快適な山行につながります。

沢登り当日

メンバーと装備の最終確認

出発前に必ず行いたいのが、メンバー全員での装備確認です。個々に準備していても、誰かが忘れ物をしていると行動全体に影響が出ます。

また、全員が持つ必要があるものと、共同で分担できるものを明確にしておくことも大切です。

行程の再確認

装備チェックが終わったら、次は行程の再確認を行います。出発地点・入渓地点・源頭の抜け口・下山ルートを全員で共有することが大切です。

特に意識したいのは以下の点です。

  • 入渓時刻と目標到達時刻
  • エスケープポイント
  • ビバークポイント

メンバー全員が同じイメージを持てるように確認しておきましょう。

また、「何時までに○○地点に到達できなければ引き返す」といったタイムリミットを設定しておくことも、リスク管理に役立ちます。

入渓

準備と行程確認を終えたら、いよいよ沢へと入ります。入渓地点では、まず装備の最終調整を行いましょう。ヘルメットやハーネスの着用、沢靴の締め直し、防水袋の封がしっかりされているかなどを確認します。

入渓直後は、水温の低さに体が慣れていないため、無理に深みに入らず、浅瀬で体を慣らしながら進むと安心です。また、最初の段階で全員の歩き方やペースを確認しておくと、その後の行動がスムーズになります。

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滝の攻略

沢登りで必ず出会うのが滝です。滝の攻略には2通りの方法があります。直登するか、高巻きするか、です。

高巻き

高巻きとは、滝の周辺の岸壁や斜面のなかから登りやすそうな場所から迂回し、滝の上に出るルートを取ることを指します。高巻きを選ぶ際のポイントは以下の通りです。

  • 無理のないルートを選ぶ(急すぎる斜面は避ける)
  • 足元が不安定な場所ではロープを使用する
  • 滑落した場合に沢に戻れる位置を意識して進む

また、ガイドブックやSNS・ブログの記録を事前に調べておくと、簡単な高巻きルートを知ることができる場合があります。現場で迷うリスクを減らせるので、特に初心者にはおすすめです。

直登

滝の水流を浴びながら、又は滝周辺の岩壁を登るのが「直登」です。水飛沫を浴びながら岩を攀じるのは沢登りの醍醐味とも言え、他の登山では味わえないスリルと達成感を与えてくれます。

直登を試みる際の基本ポイントは以下の通りです。

  • 岩の形状をよく観察し、手足を置けるスタンスを見極める
  • 水流の弱いラインを選んで登る
  • 必要に応じてロープで確保し、安全を最優先にする

ただし、滝の直登は経験や技術が求められます。濡れた岩は滑りやすく、落下すれば重大事故につながりかねません。初心者は無理をせず、登れるかどうかの判断は冷静に行うことが大切です。

初心者は高さに慣れていないため、容易な場所でも高度感で体がこわばり動きが悪くなることがあります。
最初のうちは迷わずロープを使用しましょう。経験を重ねれば、高度感のある場面でも落ち着いて行動できるようになります。
重要なのは、常に安全を確保しながら繰り返し練習し、どんな場所でも冷静に行動できるようになることです。

Tips|滝の攻略でいちばん重要なこと

淵の攻略

高巻き

滝と同じく、淵も沢登りに立ちはだかる大きな障害です。突破できないと判断した場合は、高巻きで回避します。

泳いで進む

淵の突破で有効なのが、泳いで進む方法です。水温や気温、装備の状況によっては高巻きよりも安全で効率的な場合があります。特にウエットスーツを着ていれば体温低下のリスクを抑えられるため、安心して選択できます。

ただし、注意すべき点もあります。流れが速い場所や、必死に泳がないと前に進めない状況では無理をしないこと

泳ぎを選択する際は、距離や流れの強さを冷静に判断し、確実に安全が保てるときだけ実行するようにしましょう。

ザックの浮力を利用する
防水パッキングされた荷物には大きな浮力があります。ザックをビート板のように抱えて泳ぐことで、安心して進むことができます
ライフジャケットの活用
十分な浮力がある状態では、無駄な力を浮くために使わずに済み、その分を前進に割り振れるため、結果的に早く泳げます
岩を掴みながら進む
必ずしも水泳だけに頼る必要はありません。側壁の岩を掴みながら移動した方が、安全かつ効率的な場合もあります

Tips|淵の水泳での工夫

ビバーク(宿泊)

ビバーク地の選定

安全で快適な夜を過ごすためには、ビバーク地の選定ポイントは以下の通りです。

  • 増水しても浸水しない高台や段丘を選ぶ
  • 落石や崩落の危険がない場所を選ぶ
  • できれば平坦で整地しやすい地面を確保する

沢でのビバーク体験は、一般的なハイキングなどと異なり、その空間を独占できる、特別な体験ですが、選ぶ場所を誤れば危険と隣り合わせになります。

ビバーク(宿泊)|整地作業|ツエルト・タープの設営

ビバーク地を決めたら、まずは整地作業を行います。石や枝を取り除き、できるだけ平らな寝床を作ることで、夜間の快適さが大きく変わります。

次に、ツエルトやタープを設営します。これらは同じ人数用のテントに比べて圧倒的に軽量で、携行性に優れています。渓谷内は周囲を樹木や岩壁に囲まれているため、強い風が吹きにくく、ツエルトやタープでも十分に快適な宿泊が可能な場合が多いです。

焚き火

沢登りのビバークで特別な体験となるのが焚き火です。濡れた体を乾かし、暖を取るだけでなく、仲間と火を囲む時間は沢登りならではの魅力です。

焚き火を行う際の基本は、環境に配慮すること。流木やその場にある倒木を利用し、周囲に火が移らない場所で行います。翌朝には完全に消火し、跡を残さないことも大切です。

焚き火なら大きな調理器具を使ってまとめて調理できるのも利点です。複数人分を一度に作れるため効率が良く、ガスの節約にもつながります。

特定の地域を除けば、渓谷での焚き火は合法です。沢登り以外に合法的に焚き火を行える登山スタイルはほとんど存在せず、この点も沢登りの特異な魅力といえます。

Tips|沢登りの醍醐味「焚き火」

源頭の詰めの攻略

谷筋を登る

沢を遡行していくと、やがて水流が細くなり、源頭へと近づいていきます。

源頭部は水流が弱くなるものの、勾配が増し、足場が不安定になります。いわゆる「ガレ場」という不安定な石が積み重なった地形が現れたり、ボロボロの岩壁に出会うこともあります。こうした場所ではロープで安全確保しても不確定要素が残るため、源頭部が急勾配の谷では、次項で説明するように尾根に脱出するなどのプランBを想定しておくべきです。

また、行き止まりになる支谷を選んでしまうと藪漕ぎが大変になることがあります。崩壊地についても地形図や航空写真で事前に確認できるため、避けられるルートを選びましょう。

尾根を登る

谷をそのまま詰めるのが困難な場合、ルートを切り替えて尾根へと抜ける選択もあります。特に尾根沿いに登山道がある場合は早めに登山道に出てしまうのも一つの手段です。

雪国では複雑に繁茂した植生によって藪漕ぎに非常に時間がかかるケースが多く、見た目以上に労力を必要とします。

源頭を抜けて尾根に出ると、多くの場合は藪漕ぎになります。笹や潅木が繁茂し、地図どおりに進めないことも多いため、最終的には勘と経験を頼りに通りやすいラインを選ぶ必要があります。
日当たりによって植生の密度も変わり、進みやすさに差が出ます。藪漕ぎは想像以上に時間と体力を奪うため、余裕を持った計画が重要です。
また、Googleマップの航空写真を利用すれば、植生の状態やガレ場の有無をある程度事前に確認できるので活用しましょう。

Tips|藪漕ぎの対策

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下山

登山道や林道で下山

源頭から尾根に抜けた後は、登山道や林道を利用して下山するのがもっとも安全で確実な方法です。

さらに、登山アプリを活用すれば正確な下山時間を事前に把握できるため、計画の目安にもなります。

沢を下降

ルートによっては、登ってきた沢をそのまま下降したり、別の沢を下降して下山する選択肢もあります。ただし、どちらにしても沢の下降は登山道や林道を利用する場合よりも、難易度が高いことを理解しておく必要があります。

地形によっては登攀より下降の方が難しい場合もあります。そのためロープを何度も出して時間がかかったり、場合によってはキャニオニングの知識や専用装備が必要になることもあるのです。

沢登りでは、計画通りに進めないことも珍しくありません。天候の急変や増水、体力の消耗など、思わぬトラブルが起きたときに備えて、エスケープルートを事前に把握しておくことが非常に大切です。
エスケープルートとは、予定したルート以外に安全に下山できる迂回路のこと。途中で林道や登山道に合流できる場所を確認しておけば、無理をせず安全に切り上げる判断ができます。
「行けるところまで行く」のではなく、「いつでも戻れる」ことを前提に行動するのが沢登りの基本です。

Tips|エスケープルートの重要性

下山後

登山届の提出(下山通知)

無事に下山したら、必ず登山届の下山通知を行いましょう。提出したまま連絡を忘れると、不必要な捜索が行われてしまい、関係者に迷惑をかけることになります。

方法は提出時と同じオンラインサービスでの通知がスマホからすぐに完了できるので便利です。

装備の点検

下山したら、使った装備を必ず点検しましょう。沢登りは水や砂、泥にさらされるため、ギアの劣化が早く進みます。

ロープやスリングは摩耗や傷がないか、ヘルメットはひび割れや衝撃跡がないかを丁寧に確認してください。濡れた靴やウェアはそのまま放置すると臭いや劣化の原因になるため、できるだけ早く洗浄・乾燥させることが大切です。

装備の状態を常に良好に保つことは、次回の安全にも直結します。沢登りは自然の中でギアに負担がかかる活動だからこそ、下山後のメンテナンスを習慣にしましょう。

カラビナ、確保器、アッセンダーなどの金属製ギアは、水分や泥が付いたまま放置すると腐食や動作不良の原因になります。使用後はしっかり乾かし、必要に応じて可動部に潤滑剤を差して保管しましょう。
沢靴も陰干しで完全に乾燥させてから保管してください。状態が悪いとソールが早く剥がれることがあるため注意が必要です。

Tips|ギアの保管

まとめ|三部構成で学ぶ「沢登りの始め方」

ここまでご紹介した内容は、沢登りの現場での流れを一日のワークフローとして整理したものでした。入渓から下山まで、実際の動きをイメージできたのではないでしょうか。

沢登りの始め方ガイドは、以下の三部構成でまとめています。

沢登りの始め方ガイドPart.1 「最初に揃える装備」「前提知識」「行く渓谷の選び方」など
沢登りの始め方ガイドPart.2 「地図読み」「下調べ」「アプリの活用」「保険」など
沢登りの始め方ガイドPart.3  実際の沢登りにおける入渓から下山までのワークフロー

初めて沢登りに挑戦する方は、この三部をあわせて読むことで、装備・準備・行動という一連の流れをしっかり理解できるはずです。ぜひ他の記事も参考にしながら、安全で楽しい沢登りを始めてみてください。

レベルごとに記事を用意しています

初級者:沢登りを始める前 / ロープ不要の沢登り
中級者:ロープが必要な沢登り(グレード〜6級)
上級者:ごく一部の困難な渓谷 / 開拓的な沢登り

各レベルごとの記事は、以下のリンクからご覧いただけます。