記事の内容
想定読者と記事の目的
当記事は、沢登り初級者向けの、中級者へのステップアップガイドです。
「沢登りをもっと本格的にやってみたい」「ロープや登攀用具を使う沢に挑戦したい」、そんなあなた向きの内容です。
当記事を読むとわかること
- 中級者になると行ける「渓谷の世界」
- 中級者必携の「4つの装備」
- 中級者必修の「6つの技術」
- カムを買うタイミング
それでは、さっそく始めましょう!
レベルごとに記事を用意しています
初級者:沢登りを始める前 / ロープ不要の沢登り
中級者:ロープが必要な沢登り(グレード〜6級)
上級者:ごく一部の困難な渓谷 / 開拓的な沢登り
各レベルごとの記事は、以下のリンクからご覧いただけます。
沢登り中級者とは

当記事におけるグレーディング
初級者:沢登りを始める前 / ロープ不要の沢登り
中級者:ロープが必要な沢登り(グレード〜6級)
上級者:ごく一部の困難な渓谷 / 開拓的な沢登り
これだけを見ると、「中級者の括り大きすぎない?」と感じるかもしれません。一般的には、5級・6級の沢となると、専用のトレーニングが必要との意見が多いように感じます。
一般的なグレーディング(要約)
1級:沢に慣れたパーティーはロープ不要の場合が多い
2級:滝の直登にはロープを要する場合もあり、高巻き技術も必要
3級:滝の直登には部分的にIV・V級のピッチも含み、ゴルジュ通過にも高度な技術を要する
4級:マルチデイの沢で遡行技術だけでなく雪渓の対処法など総合的な登山技術も必要
5級:泳ぎ、徒渉、高巻きなどで失敗すれば命取り
6級:昼なお暗く井戸の底のようなゴルジュ帯が続く異様な世界
一般的なグレーディングだと3級以上の沢はかなり難易度が高く感じられるかもしれません。実際には、沢登りでロープを使いはじめ、5級・6級へとステップアップしていく中で、要求される技術に大きな飛躍はありません。
私自身、当記事で紹介する内容をある程度理解できてからは、グレーディングにはそれほどこだわらずに行きたい渓谷を選んでいました。グレードが上がるほど慎重な判断が求められるポイントは多くなりますが、正しく基本を身につけて、経験を重ねていけば、難しい沢にも安全に挑戦できるようになります。
当記事で、必要な装備と技術をひとつずつ確認しながら、中級者として、さらに幅広い渓谷で沢登りを楽しめるようになりましょう!
グレードが高くなるとどうなる?
グレードとは技術的難易度の指標ですが、グレードの高い渓谷にはそれ以上の魅力があります。
グレードの高い渓谷でしか見られない「より特別な世界」があなたを待っているのです。
渓谷でしか見られない「より特別な世界」はきっと、あなたの渓谷の概念をぶち壊し、さらなる探究心に火をつけてくれるでしょう。
ここに、中級者として沢登りのレベルが上がってくると行けるようになる、「より特別な世界」を少し、紹介します。

北アルプス「ザクロ谷」

北アルプス「柳又谷」

大崩山「祝子川」*

南アルプス「赤石沢」

奥美濃「海ノ溝洞」

紀伊半島「立合川」*

巻機山「五十沢」

海谷山塊「不動川」

大分「由布川渓谷」

南アルプス「黄蓮谷」

森吉山「様ノ沢」*

飯豊連峰「桧山沢」
※ パートナーから提供を受けた写真
さあ、モチベーションは十分ですね?それでは中級者として何をすべきか確認していきましょう!
中級者が揃えるべき装備4つ

目安としては、これらの装備でグレーディング2級全般〜3級の一部の渓谷までカバーすることができます。
※ 初心者向け記事で紹介した装備(3.5万円)はすでに持っているものとして、リストを作成しています。
「4つの装備」一覧(総額:約13万円)
1. ロープ

(約1.5万円)クライミング用のダイナミックロープ φ8〜9mm / 30〜40m
2. 登攀具

(約7万円)支点構築用スリングや登攀用具などの個人装備
3. ハーネス

(約1.5万円)ロープと体をつなぐハーネス
4. ウェア

(約3万円)専用のウェア類
13万円を高いと見るか、安いと見るかは微妙なところですが、命を守る道具なのでしっかりとしたものを揃えましょう。
ここでの「しっかりしたもの」とは、用途に合ったアウトドアメーカー製品ならなんでも良く、ハイエンドモデルを揃える必要はありません。
筆者の個人的推奨ブランドや、上級者向けの沢も想定した装備リストは「沢登り「装備と技術」上級編|上級者必携の装備リスト」をご参照ください。
Tips
1. ロープ
30〜40mダイナミックロープ
沢登りでは30〜40mのダイナミックロープを使用します。直径は8〜9mm程度が目安。障害物が多い沢登りでは、短いピッチで登るのが運用しやすく安全です。
例外的に、大滝登攀では50m以上の長いロープを使用する場合もありまが、総合的な運用のしやすさを考慮すると30〜40mくらいがお勧めです。
ロープ長の考え方
Tips
ロープ長ごとの、1ピッチで登攀できる距離の目安は以下の通りです。
【ロープ長 – 10m – ビレイヤーから壁までの距離 = 登攀できる距離】
30mロープであれば15mくらい、40mロープであれば25mくらいが1ピッチで登攀可能です。
2. 登攀具
- 中間支点用スリング:60cm / 120cm各1(カラビナとセット)
- 終了点用スリング:120cm / 240cm各1(スクリューロックHMSカラビナとセット)
- スクリューロックHMSカラビナ2枚(フリー携行|セカンドビレイやセルフビレイ用)
- ピトン:薄刃 / アングル各2
- ハンマー:アルパイン用の軽量モデル
- 下降器:エイト環+スクリューロックHMSカラビナ
- アッセンダー:ペツル ナノトラクション+もう一つ(スクリューロックHMSカラビナとセット)
- タワシ:ハーネスまたは手首にぶら下げる(ヌメる岩の掃除用)
難易度が高くなれば必要な道具も多くなりますが、ここでは初級者から中級者にステップアップするために最低限必要な道具をピックアップしました。
オートブロック機能付きビレイデバイスのリスク
Tips
セカンドビレイにオートブロック機能付きビレイデバイスを使用すると、状況により解除不能になり危険なので、ムンターヒッチでセカンドビレイを行いましょう。ユマーリング中もロープは固定せず、リリーサブルアンカー(MMOなど)を使用してください。
詳細は「キャニオニングとは?沢登りにも活きる安全確保技術」にて解説しています。
3. ハーネス
最低限の快適性があるアルパインモデル
沢登りには、ある程度快適性も意識したシンプルなアルパイン用モデルが扱いやすいでしょう。スポーツ用ハーネスは水を吸って重くなる傾向があります。
4. ウェア
専用ウェアがベター、ワークマンでもOK
速乾性の高い登山用ウェアであれば基本的に問題ありません。ファイントラック(アウトドアウェアメーカー)の、沢登り専用レイヤリングを参考にするのが良いでしょう。
ワークマンでも良い?
Tips
よくある質問ですが、特に問題ありません!アウトドアメーカーのものの方が、性能・耐久性ともに優れていますが、ひとまずワークマンで速乾性のウェアを揃え、必要になってからアウトドアメーカーに置き換えて行っても大丈夫です。
意外に知られていない「レインウェア」の活躍
Tips
防寒着としてレインウェアは非常に効果的です。夏でも風によって寒く感じる渓谷内では、レインウェアを着ることで体温保持ができます。
ウェットスーツの併用
Tips
寒がりの方や泳ぎを伴う沢では、通常の登山ウェアだけでは防寒性が不足することがあります。そうした場合はウェットスーツの併用がおすすめです。寒くないセクションでは脱いで行動するため、着脱が容易なタイプが良いでしょう。
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中級者が覚えるべき技術6つ

最も重要なのは「無理のない範囲で、色々チャレンジする」こと。できそうなことは積極的に。リスクを感じたら潔く引く。それが一番重要です。
これから6つの技術それぞれの概要を見ていきますが、詳細の確認や予習には、YouTube や書籍も活用しましょう。
「6つの技術」一覧
1. 懸垂下降

POINT:実際に荷物を背負った状態で、懸垂下降を練習する
2. クライミング

POINT:ロープの扱いや中間支点の構築といった、安全確保スキルを重視
3. 支点構築

POINT:安全な場所でも積極的にロープを出して練習する
4. 高巻き

POINT:高巻きルートを自分で想定し、先人の遡行記録と答え合せする
5. 水泳

POINT:泳力そのものよりも、「水に対する恐怖心をなくすこと」が先決
6. 危険な水流の処理

POINT:危険な水流の種類を覚え、不意の事故を予防する
これから、沢登りで特に重要な6つの技術と、その練習方法を確認していきましょう。
1. 懸垂下降
POINT:実際に荷物を背負った状態で、懸垂下降を練習する
懸垂下降は、沢登りにおけるロープワークのうち、最初に学ぶべき必須技術です。立木などに固定した支点からロープを垂らし下降していきます。荷物の重さによってバランスが随分変わるので、荷物を背負った状態で練習をしましょう。
雪国では高巻きからの懸垂下降の際に、支点となる灌木が雪により谷側に倒れていることが多く、ロープをかけただけでは懸垂下降できないことも。捨て縄をフリクションヒッチで巻きつけて残置するなどの工夫が必要です。
Tips
より安全で確実な懸垂下降の実施方法は、「キャニオニングとは?沢登りにも活きる安全確保技術」のページで解説しています。
Tips
2. クライミング
POINT:ロープの扱いや中間支点の構築といった、安全確保スキルを重視
沢登りでは、スポーツクライミングで要求されるようなフィジカル(身体能力)よりも、ロープの扱いや中間支点の構築といった、安全確保スキルが重要になります。
クライミングジムや山岳ガイドが主催する講習へ参加し、安全な環境で「登攀の開始から終了まで」の流れを一通り体験しておきましょう。「アルパインクライミング」の講習がベストですが、「リードクライミング」の講習でも最低限の知識は得られます。
沢登り特有の「ヌメり」に慣れよう
Tips
沢登りにおけるクライミングの特徴として、コケなどの有機物によるヌメりがあります。ヌメる場所とそうでない場所の判断、またヌメる場所での体の使い方など、現地でしか学べないことが多いので、現地でじっくり観察しましょう!
3. 支点構築
POINT:安全な場所でも積極的にロープを出して練習する
沢登りでは、自然物を活用して自分で中間支点を設置する必要があります。ピトンやカムを使用するか、立木を利用します。
ピトンやカムの扱いは意外と難しく、実際に中間支点として機能するかどうかを見極めるには、ある程度の経験が必要です。
そのため、さまざまな岩の隙間にセットしてみるなど、安全な場所で感覚を養う練習をしておくことをおすすめします。
エイドクライミングで支点構築の練習
Tips
支点を掴んだり、支点にアブミ(エイダーとも呼ばれる)をかけて登る技術をエイドクライミングといいます。
エイドクライミングでは、支点に体重がしっかりとかかるため、その支点が確実に「効いている」かどうかを判断することができます。
落下しても安全と思えるような、水深の深い場所などでエイドクライミングを繰り返すことで、「効いている」支点の構築力を実践的に身につけることができます。
4. 高巻き
POINT:高巻きルートを自分で想定し、先人の遡行記録と答え合せする
前進が困難な場所に直面した際、安全なルートを見つけて迂回する技術を「高巻き」と呼びます。高巻きには明確なセオリーや正解がなく、それが沢登りの面白さであり、同時に難しさでもあります。
現在のところ、高巻きを体系的に教える技術講習などは存在せず、実地での経験によって学んでいくしかありません。
植生と地域特性
Tips
高巻きでは渓谷の側壁を登ることになりますが、植物が茂る斜面なら、植物を掴みながら簡単に登れるのでしょうか?
温暖な地域では、水際から少し登るだけで丈夫な植物が生えていることが多く、植物を支点として活用できる場合もあります。
一方、雪国では植物が生えていても、冬の間に雪崩によって岩肌が磨かれ、滑りやすいツルツルの岩盤の上に脆弱な植生が乗っているだけ、ということも少なくありません。
5. 水泳
POINT:泳力そのものよりも、「水に対する恐怖心をなくすこと」が先決
“恐怖心をなくす”とは、激しい流れに、無謀に飛び込むようなことを推奨するものではありません。安全な環境で、長時間ゆっくりと落ち着いて泳げる状態を目指し、水への恐怖心が無くなるようにしてください。
渓谷によっては、長距離を泳がなければならない場面や、対岸へ渡るために短い時間でも急流を横切る場面があります。そうした場面で「水が怖い」と感じていると、体がこわばって必要以上に体力を消耗したり、実際に溺れてしまう危険性が高まります。
6. 危険な水流の処理
POINT:危険な水流の種類を覚え、不意の事故を予防する
登山に関する技術書など、既存の媒体で勉強しにくいものとして、水流に関するリスク管理があります。沢登りでは水流に起因するリスクというものが意外にも大きいので、最低限以下に挙げるものについては理解するようにしましょう。
エディ

樋状の滝により滝壺に反時計回りのエディが発生している
愛媛県:足谷川
滝壺や水路などで水流が渦を巻くように反転する流れ。地形によっては泳いでも脱出できず、巻き込まれてしまうことがある。
アンダーカット

滝の水流の正面付近の岩盤が、水中に向かい斜めに抉れている
愛媛県:足谷川
水流により、水中に向かって岩盤が抉られている部分。水流でアンダーカットに押し付けられると水中に引き込む力が発生する。
バックウォッシュ

樋状の水流が滝壺に潜っていき、その巻き返しが生じている
奈良県:刈安谷
滝などで発生する水流の巻き返し。滑らかな滝に、より強く発生しやすい。条件次第では1m未満の落ち込みでも脱出困難になる。
ボイル

大水量により取り込まれた気泡で水流全体が白濁している
富山県:柳又谷
激しい水流で気泡が混じり比重が下がった水。浮力が得られず泳ぎにくい。水中が視認できないため、水中障害物の判別が困難。
シビアな水流対処にはSRT(スイフトウォーターレスキュー)の知識が必要
Tips
渓谷内での水泳などのオープンウォータースイムでは、水流など外的要因への対処法を含めた技術が必要になります。激流突破などの、より高度な水流対処法を学ぶ場合は、SRT講習を受講しましょう。
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四国の沢登りガイド写真集「GORGE CLUB」
2022年〜2024年に新たに開拓された四国の渓谷を多数含む、四国の沢登りガイド写真集です。GORGE CLUBにより発見された四国のスーパーゴルジュ三本に加え、四国を代表する険谷「足谷川」「高瀑渓谷」「魔戸の滝〜魔戸ゴルジュ「瓶壺谷」の水線突破遡行ラインを収録。
カム(カミングデバイス)を揃えるタイミング

ここまでの装備を一通り揃えたうえで、さらに難易度の高い沢に挑戦したいと考えるようになったら、カムを買いましょう。
カムは高価な装備で、1本あたり1万円以上します。そのため、「どのタイミングで購入すべきか」と悩む方も多いかもしれませんが、中級者としてステップアップしていくには必須の装備でもあります。
カムを揃えることで、〜6級の沢に行く準備はほぼ整ったといえます。
1セット目のカムを買うタイミング
ガイドブックなどで、クライミンググレードが「III級」や「IV級」と表記されるレベルの渓谷に行くようになったら。
おすすめブランド:キャメロット
キャメロット Camalot Z4 0.2〜0.75 各1(合計5)
このセットがあれば、日本国内の大半の渓谷で必要な範囲をカバーできるはずです。装備重量を最小限に抑えつつ、リスクをしっかり軽減できる構成です。
キャメロットの特徴でもある対応レンジの広さは、沢登りにおいて大きなアドバンテージになります。サイズごとのレンジのかぶり度合いが大きく、例えば#0.4を使用しても、#0.3と#0.5の隣り合う番手で#0.4のレンジをカバーできるなど、汎用性の高さが魅力です。
2セット目のカムを買うタイミング
1セット目のカムを運用するなかで、本数が足りないと感じはじめてから。
お勧めブランド:トーテム
トーテム Totem トーテムカム 0.5〜1(合計4)
2セット目のカムが必要になった場合は、トーテムカムまたはマスターカムを揃えるのがおすすめです。
これらのカムは、キャメロットと比較してセット時の安定性が高く、一度しっかり決まるとズレにくいという特徴があります。渓谷の難易度が上がるにつれ、「落ちるかもしれない」と感じる場面は相対的に多くなります。そんなときに、より安全性の高いカムを使用している、という心理的アドバンテージが重要になるのです。
沢登りの奥深さを堪能してください!

装備を揃え、技術が向上していくと、それまでは想像もできなかったような渓谷に立ち入ることができるようになります。
そこでは、生涯記憶に残る景色に幾度となく出会うことでしょう。
正しい装備と技術で、沢登りの世界を堪能してください!
レベルごとに記事を用意しています
初級者:沢登りを始める前 / ロープ不要の沢登り
中級者:ロープが必要な沢登り(グレード〜6級)
上級者:ごく一部の困難な渓谷 / 開拓的な沢登り
各レベルごとの記事は、以下のリンクからご覧いただけます。























