高瀑。
四国で沢に、ひいては山に詳しい人間であれば誰もが特別な感情を抱いているであろう大瀑布。
そこに至るまでの渓谷に、つい最近まで未知が残っていた。2021年、キャニオニングにて下部ゴルジュの全貌解明を行った。その後より詳しく調べると下部ゴルジュはごく一部を除き沢登りで突破されたことがないという。
侵食激しいゴルジュ滝が連続する下部ゴルジュを沢登りで突破することはできるのだろうか。好奇心が心をくすぐる。そして何より、初完全遡行という甘美な果実を私が味わいたい。
高瀑渓谷 下部ゴルジュ完全遡行
メンバー:ゴルジュクラブ3人|紀伊半島彷徨クラブ1人
1日目
高瀑渓谷の下部ゴルジュより下流はゴーロ主体の渓谷である。時間節約のため林道で820mほどまで標高を上げ、支流沿いに入渓。すぐに名物・50cmゴルジュが始まる。
四国に多い脆弱な変性岩でありながら、これほど見事に侵食されたゴルジュは珍しい。
CS3mはステミングでフリー。身長が低いと苦労すると思う。
続くCS5mは左スラブをブラッシングしながらフリー。
しばらく進んだ先の3m+樋は左から水流裏を抜け右スラブからフリー。
一見絶望的に見えてもトライすることが重要と実感する滝。
大岩の詰まる滝やらなんやらをサクサク超えていくと核心・2段12mが姿を現す。
因縁の滝である。1回目は増水で到達できず、2回目はメンバーが負傷した。今回こそ登らねばならない。リードジャンケンで勝ち、中段の水流左から登攀開始。
左から水流をくぐり右のフレーク状へ。マイクロカムがところどころ効くがハーケンの効きはイマイチ。落ち口から1.5mほど上のフレーク裏にカムを効かせ核心部へと進む。ここから先は水流に磨かれた樋状でホールドスタンスともに極小のブランクセクションである。カムに体重を預けフリーの可能性を探るが空身クライミングシューズでも成功率は五分五分。
より確実な方法を選択し、トリッキーなA0で突破。最後は水流を跨いで核心部を越えた。
フォローが苦労して登るのをニヤけながら眺めた。幸せである。
その後も小ゴルジュが続くが難しさはない。各々ボルダーを楽しみながら進んでいく。
標高960mで滑床が現れ、下部ゴルジュ終了。適当な平地を見つけて幕営した。
2日目
2日目は高瀑までの約1.5kmを遡行する。上部ゴルジュも全貌を記す記録はなく、思いもよらぬ美瀑やゴルジュが次々に現れ興奮した。
今日も当然水線突破していく。
若干厄介な滝もいくつか現れる。
いよいよ高瀑に近づいてきた。
20m滝を越えると高瀑はもうすぐそこだ。登山道が近くにあるが個人的にはこの滝は登っておきたかった。
メンバーのダルそうな視線をガン無視して登攀を開始する。ボロボロの見栄えのしない、面白くもない滝ではあるが、この滝こそが高瀑への正門なのだ。
20m滝の落口から3分。高瀑を正面に望む滑床に飛び出た。
高瀑渓谷の完全遡行を終えた我々には、正面から高瀑に謁見する資格がある。穏やかな陽光を浴びながらゆっくりと高瀑に向かった。
高瀑。
四国で沢に、ひいては山に詳しい人間であれば誰もが特別な感情を抱いているであろう大瀑布。
今の私に高瀑を登攀する力があるとは思わないが、いつか。